M&Aによる加速的な成長と“三方良し”の実現

2024年7月18日に経済産業省主催の「J-Startup Hour (※):スタートアップのM&Aという成長戦略〜PEファンドによる投資事例から学ぶ〜」が開催されました。
近年注目されているスタートアップのM&Aエグジットに関するセッションで、当社のフィナンシャルアドバイザリー部の長田執行役員が登壇いたしました。

本記事は当日のディスカッションをもとに、M&Aによる成長戦略について、実際の事例を通じたM&Aエグジットの進め方や買収先の選び方、注意点についてまとめたものです。
※J-Startup Hourとは、Venture Café Tokyo主催のThursday Gatheringの1セッションとして開催される、経済産業省が主催するスタートアップに関連する官民の様々なプレーヤーが登壇するイベントです。

案件概要

スタートアップ企業のM&A成長戦略 ー前編ー
お話しを伺った方
株式会社イデアル
代表取締役
濱 恵介 様
ニューホライズン キャピタル株式会社
副CIO / マネージング・ディレクター
永利 敦 様
EY新日本有限責任監査法人
シニアマネージャー
(モデレーター)
長谷川 昌俊 様
GWP
執行役員
長田 新太
登壇者の肩書・経歴はイベント時のものです。(以下敬称略)

ご担当者の声

M&A実施までの経緯
コロナでIPOからM&Aに舵を切った
長谷川

本日は、スタートアップの新しいエグジットの形としてM&Aをテーマとしたセッションを行います。対象会社株式会社イデアル(以下イデアル)のM&A実施までの経緯と一般的なPEファンド投資についてお話ししていきます。よろしくお願いいたします。

まずは、M&Aを実施しようとした背景についてお聞かせください。

当時の創業者がIPOを目指して事業を拡大、組織体制を強化しておりました。ステージとしては上場予定の2年前のタイミングでしたが、監査報酬の準備コストの増大やコロナによるパンデミックによりM&Aという選択肢を検討しました。


(イデアル 濱氏)

長田

コロナ禍で世界的に先行きが不透明な状況の中、売主オーナーからIPO以外の選択肢として当社(以下「GWP」)にご相談いただきました。

長谷川

GWPに相談後、株式会社ニューホライズンキャピタル(以下「ニューホライズン」)がイデアルに投資するまでのマッチングと経緯について教えてください。

 

長田

すぐにM&Aプロセスに入るのではなく、売主オーナーの叶えたい条件等をヒアリングしながら、ソフトサウンディングという形で数社の買い手候補にマーケティングを実施しました
具体的には、限られた数社に対象会社がイデアルと全く分からない状態で、M&Aの可能性の有無、希望の条件が叶う可能性について調査しました。その状況をオーナーにご報告したところ、M&Aに前向きな回答がありM&Aプロセスがスタートしました。

正式なM&Aのプロセスに入り、買い手候補先の検討を進める際には、シナジーの見込めそうな事業会社、投資ファンド等をサーチしました。バリューアップの観点からIT領域を強化できる可能性や、営業に強みがあったので人材面でシナジーを創出できそうな企業をいくつかご紹介しました。
その一つにニューホライズンがありました。選定理由としては、過去のトラックレコードからIT強化によるバリューアップの投資実績があり、投資のサイズにマッチしていたことが挙げられます。

売り手側のフィナンシャルアドバイザー(FA)として、複数の会社と交渉した結果、ニューホライズンとのご縁が成立した運びとなります。


(GWP 長田)

長谷川

ニューホライズンとして、この投資にどのような意思決定をおこないましたか。

永利

長田さんからイデアルの紹介を受けたのはコロナ禍の2021年の10月頃だったと記憶しています。コロナ禍において、飲食業界はかなり痛手を被っている状況でした。
我々ファンドとしても、飲食が絡んだ投資を進めて良いかは非常に大きな判断ポイントでしたので、あらかじめGWPから頂いた資料の検証と、飲食業界の実態について調査を進めました。

その結果、非常に面白いデータだったのですが、コロナにより飲食店で廃業する人が多い一方で、飲食店開業を希望する人も多く、コロナ禍においても廃業よりも開業希望の方が多いというデータが取れました。
さらにイデアルは飲食向けに、駅から徒歩5分以内、1階というような一等地を多く保有しており、業績そのものは好調でしたので前向きに投資を検討しました。

 

長谷川

面白いデータですね。
実際に投資が決定されていく過程で、GWPのFAとしての役割やFAに期待できることをぜひ教えてください。

長田

今回、イデアルについては、売り手側のFAとして関与させていただきました。売主オーナーの希望条件を叶えつつ、対象会社の事業成長を可能にする、という観点から、全体のプロジェクトマネジメント(プロセス設計・コントロール等)、打診先検討、アプローチ、打診用資料の準備、DDの対応、契約交渉、クロージングに至るまで、一連のアドバイスを実施しました。

特に、本件でポイントだったのは、コロナ禍で緊急事態宣言などがあり、飲食系の店舗をメインに運営されているビジネスに対する打診時のネガティブな印象を払拭することです。実態を正確に見て判断していただくことが非常に重要であり、定性面だけでなく定量面でも説明できる資料を準備し、交渉を行った点がポイントだったと思います。

経営者の「従業員がより活躍できる場にしたい」の実現に向けた投資実行
長谷川

企業側の当事者である濱さんは、この投資についていつ知りましたか?

2021年の9月頃だったと記憶しています。投資が実行されたのは20223月ですから、半年前くらいです。創業者の年齢が比較的若かったので、早いなと驚きました。
ただ、私が取締役に就任してから、創業者がフロントに出ずに私に任せてくれていたので、すぐに納得しました。

長谷川

売り先についての印象はいかがでしたか?

ファンドに対しては、ハゲタカ(企業を安く買収し、組織を解体して高値で売る)といったネガティブなイメージが先行しておりました。事業に対するイニシアティブが取れなくなる懸念や、離職者が増えないかという心配がありました。
しかし、結果として投資実行から1年が経過した頃から、投資の効果に対して確信を持てるようになりましたニューホライズンは会社のカルチャーや私が描いた事業の成長ビジョンを一貫して尊重し、伴走してくれました。社員も結局退職したのは古株の1名のみで、皆残りました。

永利

プライベートエクイティファンド(以下PEファンド)に対してはハゲタカというイメージが強いと思います。しかし我々は買って売って終わりではありません。
経営のマジョリティを取るとは、リスクを取るということです。自ら会社の価値を上げるために、経営者と共に汗をかき、価値を高める覚悟で投資を決めています。


(ニューホライズン 永利氏)

長谷川

投資が決まった後、従業員とのコミュニケーションで気を付けた点はありますか?

投資が実行される前から全社員に対して、時にはお酒を交えながら、個別に丁寧に対話を重ねました。「変わらないよ」と。会社の方針もビジョンも変わらないと伝えました。

実際に1年が経過して、不安や懐疑的だった従業員も納得し、離職者もほぼ出ませんでした。

永利

濱さんは非常に人を大事にされる方で、「イデアルに入った以上は従業員が活躍できる場にしたい」という想いを伺っていました。経営者の想いをどのように形にし、企業成長のための施策を行うか、従業員へのヒアリングも交えつつ実行しました。
実際にお客が増え、会社の価値が高まるにつれて、イデアルの皆から信頼してもらえたと感じています。

濱さんの想いの一つである「従業員の活躍」の実現に向けては、人事部門の体制を整えることから始めました。
イデアルは営業が非常に強い会社で、営業方法が骨太で離職率が高い点が悩みでした。そこで、人事部門の確立を目指し、営業のトップの一人を人事責任者に据え、採用と教育に取り組みました。その結果、新人でも新規受注に至るなど、組織がポジティブに変化しています。

長谷川

投資実行から2年半が経過しましたが、本音としてはどのように感じていますか?

ロナによってIPOを断念し、創業者の思考がM&Aに変わったタイミングから会社全体が保守的な動きになっていました。ニューホライズンに入ってもらったことで、再び成長戦略に大きく舵を切ることができ、業績も順調に伸びていることを踏まえると、M&Aという選択は間違っていなかったです。

具体的に2点、成長した点があります。

1点目は、我々が苦手としていたITの分野が拡充されたことです。永利さんはその分野で非常に秀でており、新規事業としてオンラインでテナントとマッチングできるサービスもローンチすることができました。

2点目は、質の高い営業収益です。営業スタイルは従来通りですが、ニューホライズンに入ってもらったことで、投資実行前の決算と比べ3年で営業利益は倍になりました。企業のビジョンやカルチャーを尊重していただきながら、非常に良い方向で成長していると考えます。

長谷川

ありがとうございます。

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本記事は後編に続きます。
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